バラバラの運用が、情シスを疲弊させる
AI時代の情シスを取り巻く環境は、大きく変化しています。
本シリーズでは、第1回でPCやサーバからクラウド、SaaS、生成AIへと「管理対象」が拡大していること、第2回ではシャドーITやシャドーAIを「見える化」すること、第3回では「Patch
Wave」に備え、リスクに応じて更新の優先順位を判断することの重要性を取り上げてきました。
ここまで見てくると、あることに気付きます。
管理対象が増えれば、それを守るための仕組みも増えていく。
パッチ管理、脆弱性管理、エンドポイント保護、DNSセキュリティ、メールセキュリティ、特権管理、アプリケーション制御――。
いずれも企業のIT環境を守るために必要な対策です。
しかし、新しい課題が生まれるたびに個別のツールを追加していくと、今度は「それらをどう運用するのか」という別の問題が生まれます。
たとえば、ある端末に重大な脆弱性が見つかったとします。
脆弱性やパッチの状況を確認し、不審なプログラムが実行されていないか、管理者権限が利用されていないか、怪しい通信が発生していないかを調べる。それぞれが別の製品で管理されていれば、複数の管理画面を行き来しなければなりません。
一つひとつの製品は正常に機能していても、情報が分散していれば、それらをつなぎ合わせるのは人です。管理画面を切り替え、アラートや端末、ユーザーの情報を照合し、「何が起きているのか」を判断する。
管理対象が増えた結果、情シスには「ツールを管理するための仕事」まで増えてしまったとも言えるでしょう。
AI時代のIT運用で必要なのは、新しいツールを追加し続けることだけではありません。
分散した情報をつなぎ、判断から対応までを一つの流れとして運用すること。
次に考えるべきテーマは、「ツールの統合」ではなく「運用の統合」です。

図1(バラバラの運用が生む負荷)は、運用負荷の増大/対応の遅れ/見落としのリスクを説明しています。
「ツールの統合」ではなく「運用の統合」へ
複数のセキュリティ製品を利用していると、「管理画面を一つにまとめたい」というニーズが生まれます。
確かに、複数の製品を一つの画面から確認できれば、管理者の負担は軽減できます。しかし、AI時代のIT運用で本当に必要な「統合」は、それだけではありません。
重要なのは、管理画面を一つにすることではなく、情報と対応の流れをつなぐことです。
例えば、ある端末で重大な脆弱性が見つかったとき、その端末の資産情報やパッチ適用状況、不審な挙動、権限利用、アプリケーション実行などを関連付けて確認できれば、管理者は状況をより早く把握できます。
そして、必要に応じてパッチを適用する、権限を制御する、アプリケーションの実行を止める、といった対応へつなげていきます。
ここで重要なのは、
「検知する」「調べる」「判断する」「対応する」を、別々の作業として考えないことです。
これまでのIT運用では、セキュリティ製品ごとに役割を分け、それぞれを個別に管理する「個別最適」が中心でした。しかし、管理対象もアラートも増え続けるAI時代では、個々の製品を効率化するだけでは限界があります。
求められるのは、「個別最適」から「全体最適」への転換です。
統合プラットフォームの価値は、単に製品数や管理画面を減らすことではありません。
情報を探し回る時間を減らし、複数の情報を関連付け、必要な対応までの距離を短くする。
言い換えれば、情シスが「確認すること」に使う時間を減らし、「判断すること」に使える時間を増やす。
それこそが、AI時代に統合運用が求められる大きな理由です。

図2(個別最適から統合運用へ)では、統合運用についてまとめています。
統合プラットフォームが変えるIT運用
前章では、AI時代に必要なのは、単に複数の管理画面を一つにまとめることではなく、情報と対応の流れをつなぐ「運用の統合」であることをご紹介しました。
その一つの方法が、複数のセキュリティ機能を共通の基盤で管理するアプローチです。
Heimdalでは、パッチ・脆弱性管理、エンドポイント保護、DNSセキュリティ、メールセキュリティ、特権管理、アプリケーションコントロールなど、複数のセキュリティ機能を一つのプラットフォーム上で提供しています。
重要なのは、「多くの機能がある」ということではありません。
それぞれの機能を、別々の対策として終わらせないことです。
例えば、第3回で取り上げたPatch Waveへの対応では、資産や脆弱性を把握し、リスクを確認したうえで、必要な更新プログラムを適用していきます。
しかし、パッチ適用までの間にも、不審なプログラムの実行や管理者権限の利用、危険な通信などのリスクは存在します。
そこで、パッチ管理だけでなく、
「権限を制御する」「アプリケーションを制御する」「通信を制御する」「脅威を検知する」
といった対策を組み合わせることで、一つのリスクに対して複数の角度から対応できます。
これは、第2回で取り上げたシャドーAIやシャドーITにもつながります。
DNSセキュリティでAIサービスへのアクセス状況を把握し、必要に応じてアプリケーションコントロールで未承認のAIツールの実行を制御する。さらに、管理者権限が必要な処理には特権管理で必要なときだけ権限を付与する。
このように、見える化 → 判断 → 制御 を一つの流れとして考えられることが、統合運用の大きな意味です。
もちろん、すべてのセキュリティ対策を一つの製品へ置き換えることが、必ずしも正解ではありません。大切なのは、「何製品導入しているか」ではなく、それぞれの情報と対策が、運用としてつながっているかという視点です。
管理対象が増え続けるAI時代だからこそ、個々のセキュリティ機能を「点」で導入するだけでなく、それらを「面」としてつなぎ、運用全体を最適化していくことが重要になります。
そして、この統合された情報をさらに活用し、情シスの判断を支援しようとしているのが、AIです。

図3(点の対策から面の統合運用へ)では、統合運用の価値をまとめています。
AIが情シスを支援する時代へ
ここまで本シリーズでは、AIがIT運用にもたらす新しい課題を見てきました。
生成AIによって管理対象が増え、シャドーAIやAIエージェントへの対応が必要になり、さらに脆弱性発見の加速などを背景とした「Patch Wave」も起こり始めています。
このように見ると、AIは情シスにとって「新しい管理対象」や「対応すべき変化」として映ります。
しかし、AIにはもう一つの側面があります。
それは、増え続ける情報を整理し、情シスの運用を支援する存在としてのAIです。
「情報が足りない」から「情報が多すぎる」へ
統合プラットフォームによって、端末、ユーザー、脆弱性、パッチ、権限、アプリケーション、通信、セキュリティイベントなど、さまざまな情報を集約できるようになると、新たな課題が生まれます。
情報が多すぎて、何から確認すればよいのか分からない。
重要なのは、すべての情報を同じように確認することではありません。
大量の情報から、「何が起きているのか」「どこを優先して確認すべきか」「次に何を調べるべきか」を素早く整理することです。
ここに、AIを活用する意味があります。
人が情報を探す運用から、AIが情報を整理する運用へ
例えばセキュリティアラートが発生したとき、AIが関連する端末情報や脆弱性、実行履歴などを整理し、管理者へ提示できれば、調査のスタート地点を早く見つけることができます。
さらに、複雑な情報の要約やレポート作成、確認すべきポイントの提示などを支援できれば、日々の運用負荷の軽減にもつながります。
つまり、
人が情報を探す → 人が整理する → 人が判断する という流れから、
AIが情報を整理する → 人が確認する → 人が判断する という流れへの変化です。
AIが管理者の代わりになるのではありません。
管理者が判断するまでの時間を短くする。
ここに、IT運用におけるAIの大きな価値があります。
統合されているからこそ、AIを活かせる
AIが有効な支援を行うには、その判断材料となる情報が必要です。
複数のセキュリティ情報が統合されていれば、AIはそれらを関連付け、より広い視点から情報を整理できるようになります。
つまり、統合管理は管理画面を減らすだけでなく、AIが運用を支援するための「情報基盤」にもなっていくのです。
Heimdalでも、統合プラットフォーム上の情報を活用し、管理者の判断や運用をAIで支援する「Wingman AI」の取り組みが進められています。
Wingman AIは、Heimdalの各機能を横断してAIによる支援を提供していく構想で、設定の推奨や調査・トリアージ、優先順位付けなど、段階的に管理者の運用を支援していくことが想定されています。
AIによる運用支援は、すでに始まっている
一方で、AIによる運用支援の一部は、すでにHeimdalの機能として実装されています。
その一つが「AI Scripting」です。
AI Scriptingでは、管理者が実現したい処理を自然言語で入力すると、AIがPowerShellやバッチスクリプトを生成し、そのままタスクスケジューリング可能です。
例えば、「指定の時刻になったらメッセージを表示する」と日本語で指示すると、その内容に応じたスクリプトを生成できます。生成されたスクリプトは、管理者が内容を確認・編集したうえで、IT運用に活用できます。
これは、AIが情シスの代わりに判断するのではなく、これまで人が行っていた作業の一部をAIが支援する一つの例です。

【画面例:AI Scriptingによるスクリプトのリクエスト】

【画面例:AI Scriptingによるスクリプト生成】
ただし、重要なのはAIにすべてを任せることではありません。
AIが情報を整理し、作業を支援する。そして、自社の業務やリスクを理解する人が最終的に確認・判断する。
これからのIT運用では、このような「AIと人の役割分担」が重要になっていくでしょう。

図4(AIが支援する次世代IT運用)では、AI活用の効果をまとめています。
AI時代、情シスは「運用を設計する」役割へ
管理対象が増え、セキュリティ対策やそこから生まれる情報も増え続ける中で、すべてを人の手で確認し、判断し、対応していくことには限界があります。
だからこそ、これからの情シスには、個々のツールを使いこなすだけでなく、IT運用全体をどのように設計するかという視点が重要になります。
何を管理対象とするのか。どのリスクを優先するのか。どこまでを自動化し、どの判断をAIに支援させるのか。そして、最終的に人が判断すべきものは何か。
こうしたルールや運用の流れを設計することが、AI時代の情シスに求められる役割になっていきます。
言い換えれば、「ツールを操作する人」から、「IT運用を設計する人」へ。
定型的な確認や情報収集を統合プラットフォームやAIに支援させることで、人はセキュリティ方針の策定、業務部門との調整、新しい技術の評価、リスクに基づく判断など、より重要な仕事へ時間を使えるようになります。
AI時代のIT運用とは、すべてをAIへ任せることではありません。
人とテクノロジーの役割を整理し、限られたリソースを本当に必要な判断へ集中させることなのです。
4回のブログで見えてきたもの
本シリーズでは、「AI時代、情シスはどう戦うべきか」をテーマに、IT運用の変化を考えてきました。
第1回では管理対象の増加、第2回ではシャドーAI・シャドーITの見える化、第3回ではPatch
Waveに対するリスクと優先順位に基づくパッチ管理、そして第4回では、それらをつなぐ統合運用とAIによる支援を取り上げました。
▼ シリーズ「AI時代、情シスはどう戦うべきか」
第1回:「管理対象が爆発的に増えた時代、「ひとり情シス」は何と戦っているのか」
第2回:「AIは止めるべきか? シャドーAI時代に必要な「見える化」という考え方」
第3回:「 押し寄せる「Patch Wave」とどう向き合うか AI時代の新しいパッチ管理」
第4回:「統合管理とAIが支える、次世代IT運用」(当記事)
4回を通して共通しているのは、
「増え続けるものを、人の作業だけで追いかけ続けない」という考え方です。
管理対象が増えれば、見える化する。
情報が増えれば、優先順位を付ける。
対策が増えれば、運用を統合する。
判断材料が増えれば、AIの力を借りて整理する。
人が判断すべきところに、人の力を使えるIT運用を作ること。
それが、本シリーズを通してお伝えしたかった「次世代IT運用」の姿です。

図5(AI時代の情シスのロードマップ)では、AI時代の情シスロードマップをまとめています。
おわりに
AIによって企業のIT環境が変化する中、情シスが管理すべきものはこれからも増えていくでしょう。
そのたびに人員やツールを増やし続けるのではなく、
見える化し、優先順位を付け、制御し、運用を統合し、AIの支援を活用する。
こうした仕組みを作ることが重要になります。
AI時代の情シスに求められるのは、AIと戦うことではありません。
AIを理解し、管理し、味方につけながら、IT運用そのものを進化させていくことです。
本シリーズが、皆さまのIT運用を見直す一つのきっかけとなれば幸いです。
なお、本シリーズでご紹介してきた、IT資産や脆弱性の可視化、パッチ管理、シャドーAI・シャドーITの把握、アプリケーションや権限の制御、エンドポイントやネットワークの保護、そしてそれらを一つの基盤で管理する統合運用は、Heimdalのセキュリティプラットフォームで実現できます。
Heimdalは、個々のセキュリティ機能を提供するだけでなく、それらを一つのプラットフォーム上で連携させることで、「見える化 → 判断 → 制御 → 修復」までをつなぐIT運用を支援します。
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■ 講演タイトル:
セキュリティ対策を増やしているのに、なぜリスクは減らないのか
~AI時代、攻撃者は情シスの「やりたくてもできていないこと」を狙う~
■ 開催日時:2026年10月21日(水) 11:30-12:00
■ 会場:TAKANAWA GATEWAY Convention Center (B2F&B1F)
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本記事はここまでとなります。
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