PoLP運用はなぜ失敗する?現場と情シスのすれ違いを超える“続けられる仕組み”

「正しいこと」なのに、なぜPoLPは定着しないのか?

――情シスと現場の“すれ違い”を超える視点

「また戻したんですか、管理者権限」
「はい…緊急対応だったので」

― 某中堅企業 情報システム部門と現場担当者の会話

最小権限の原則(PoLP:Principle of Least Privilege)は、情報セキュリティの基本中の基本です。
この原則は「ユーザーやプロセスには業務に必要な最低限の権限だけを与えるべきである」という考え方であり、外部からの攻撃や内部不正による被害を最小限に抑えるための有効な対策です。

日本国内でも近年、ClickFixのような「ユーザーの権限を逆手に取った」マルウェアの被害が増えており、PoLPの重要性はますます高まっています。( 前回記事「「ClickFix型攻撃」対策に!最小権限の原則に基づく管理者権限の運用」)

しかし、いざ導入してみるとこうした声が必ず出てきます:

  • 「作業に支障が出るから戻した」
  • 「現場が反発してうまくいかない」
  • 「導入しても運用が回らない」
  • 「管理者の工数が逆に増えた」

PoLPは「正しい」でも、“続かない”
そのギャップの背景には、「仕組みの不在」と「共感の欠如」があるのです。

想定シナリオ:PoLPを失敗した企業のケース

ここに、ある製造業の中堅企業(社員数 約700名)があります。
IT部門は情報漏えい対策とマルウェア対策を目的に、全社のPCからローカル管理者権限をはく奪する施策に着手しました。

準備期間はわずか3週間。ポリシー文書と簡単なFAQを添えて、PoLP運用がスタートします。

「セキュリティを高めるためです。現場にも理解いただきたい」
― IT部門マネージャーの全社メールより

ところが、その数日後には以下のような混乱が起こります:

  • 工場現場でツールの設定変更ができず、作業ストップ
  • デザイン部門でフォントインストールができず、納品遅延
  • 外部ソフトの導入が必要な営業部門で作業停滞
  • 「元に戻してくれ」の問い合わせが情シスに殺到

ついには、ある部門マネージャーが独断で技術者に管理者権限を再付与。
「緊急対応だから」と、ルールは形骸化していきます。

「また元に戻った。やっぱりPoLPは無理だったんだよ」
― IT部門の若手担当者の言葉

なぜ失敗したのか?見落とされがちな要因

失敗の要因は単純ではありません。
PoLPそのものが誤解されているケースも多く、以下のような落とし穴があります。

① PoLPは「禁止」ではない

「ソフトを入れるな」「設定を変えるな」ではなく、必要なときに使える“安全な道”を用意することがPoLP運用の本質です。

② 運用を“手作業”にすると破綻する

紙やExcelベースの申請、手動の承認ではスピードが追いつかず、現場からは「面倒・非効率・やってられない」の三重苦に。

③ “共感”の説明が足りない

セキュリティ部門が正しいことをしていても、「なぜやるのか」を現場に伝えきれていないと、締め付けにしか見えません。

④ 属人的な対応が抜け道をつくる

一部だけ例外、特定の人だけOK、という運用は「結局なし崩し」の原因になります。

再挑戦:PoLPを“現場から設計する”

同じ企業が数ヶ月後、PoLP運用に再挑戦しました。
今回は3部門(設計・営業・開発)に絞ったパイロット運用からスタート。前回の反省を踏まえ、次のような改善を行いました。

① 初めに「なぜPoLPが必要か」を共有

ClickFixのリスク、ランサム被害の実例、内部統制の必要性を、具体的に伝える場を設けました。説明会では「現場で困ること」への質問も事前にヒアリング(回収)。

② 自動で一時的に昇格できる仕組みを導入

業務に必要なアプリケーションや設定変更を申請すれば、管理者権限が一時的に自動付与され、時間経過で剥奪されるように。

③ スマホで承認/よくある作業は自動昇格

管理職の負荷軽減のため、スマホ通知での即時承認を導入。さらに、定期的に昇格されている作業は機械学習によって自動承認されるように設定。

④ 成果

  • ローカル管理者権限を持つ常時ユーザーが完全ゼロに
  • 現場から「むしろ使いやすくなった」と評価
  • 情シスの問い合わせ対応が従来の1/3以下に減少

PoLP運用は「ルール」と「自動化」が鍵

現場にとって「PoLP=使いづらくなる」という印象がついてしまうと、どれだけ理想的な権限設計でも定着しません。
ポイントは、「どうやって使えるようにするか」= 運用の工夫と仕組み作りです。

要素重要ポイント
運用ルールどんな状況で、誰に、何を許すか
自動化昇格・はく奪・記録の自動化
可視化昇格理由・操作の証跡を残す
現場理解“業務を止めない”仕組み
上層部の理解コンプライアンス+効率の両立

PoLPの“導入障壁”と定着のための運用ステップ

PoLPの重要性は理解していても、実際の導入にはさまざまな壁があります。
特に中小〜中堅企業では以下のようなハードルが多く、導入に二の足を踏むケースも少なくありません。

導入障壁現場の声Heimdal PEDMでの解決策
業務が止まるのが怖い「今まで通り使えなくなるのでは?」必要なときだけ自動で昇格。作業後は自動で剥奪
申請・承認が面倒「いちいち手続きしていられない」ワンクリック申請+自動承認で承認待ちゼロへ
現場の反発が強い「現場を信用していないのか?」操作ログの可視化+現場の裁量を尊重したポリシー設計
管理者の工数が増える「結局、情シスが疲弊する」ポリシーによる自動承認・自動昇格で運用負荷を削減

上表のような課題は、Heimdal 特権昇格・委任管理 (PEDM) を活用することで「PoLP導入 → 運用定着 → 現場への浸透」までを段階的に進めることができます。

  1. スモールスタート(部門単位、PC数限定)
  2. 自動昇格と自動はく奪のポリシー設計
  3. スマホ通知やセッションベースの申請導入
  4. 信頼ユーザーの自動承認(ML活用)
  5. ログによる透明性・監査対応

現場にも上層部にもメリットがある

PoLPの導入がうまくいくと、全社的なセキュリティ文化の醸成に繋がります。
それは同時に、次のような組織的メリットをもたらします:

  • 現場 : 作業を止めずにセキュアな環境が維持できる
  • 情シス: 一元管理と自動化で負荷を抑えながら統制強化
  • 経営層: 内部統制、監査対応、リスクマネジメントを実現

まとめ:「続くPoLP」は仕組みでつくる

PoLPは一度設定すれば終わりではなく、常に“維持される仕組み”が必要です。
その仕組みを支えるには、以下のような具体的な機能が求められます:

  • 一時昇格 → 時間経過で自動はく奪
  • 自動承認ルールの適用
  • スマホ通知やセッション単位での昇格申請
  • 機械学習による“信頼済みユーザー”の自動昇格
  • 昇格・承認・操作のログを取得して監査対応に活用

Heimdal PEDMは、こうしたPoLP運用を“仕組みとして維持”するための実装を担うツールです。
単なる昇格ツールではなく、「現場が使い、管理部門が見守る」ための柔軟な運用ポリシーと自動化ロジックを内包しています。

現場の納得感 × 管理の確実性 × 続けられる仕組み
それを同時に実現するのが、Heimdal PEDMです。

本記事はここまでとなります。
もし気になった点やご質問などあれば、お気軽にお問い合わせください。

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